インタビュー:『LOOPER/ルーパー』(原題: Looper) を可能にした 特殊メイクアーティスト 辻一弘氏

インタビュー:海外で活躍する日本人

ハリウッドで作品創りにこだわり続ける 特殊メイクアーティスト 辻一弘氏

 

高校三年生の時に読んだ雑誌記事に感銘し、特殊メイクの世界でのキャリアを目指すことを決めた辻氏。
アメリカに渡る前からハリウッドの業界で名が知れ渡っていたという才能あふれる方です。
今回、SF映画『LOOPER/ルーパー』でメイクアップデザイナーを担当している辻氏にお話をお聞きしました。

映紹: 『LOOPER ルーパー』(原題: Looper)の主役ジョゼフ・ゴードン=レヴィットのトランスフォメーションは驚きでした。ゴードン=レヴィットの顔に何をしたんですか?(笑)
顔と言うか表情?をどのように変えたのですか? ゴードン=レヴィットの顔を変える課程を教えてください。

: まずジョセフの顔の型を取ります。それをもとにして、たとえば、ブルース・ウィルスにする場合、鼻をねんどで彫刻をして作りたい形を作って、それをまた型取ります。そしてシリコンの顔を抜いてそれを顔に貼付けてメイクをするという過程です。
すぐにパッとできるものではないです。

映紹: ジョゼフとブルースは、全く違った顔を持った俳優達ですね。彼らの写真を見て研究されましたか?

: 写真を見たり、本人に会ったり。取った顔型をベースに、ジョセフの顔も観察しました。
どうすればどのように似せる事ができるかとデザインをしていきます。


 

 
このビデオの1:15~2:17の部分で、『LOOPER ルーパー』の主演を務めたジョゼフ・ゴードン=レヴィットが辻氏の事を「世界中で一番すばらしい特殊メイクアップアーティスト/デザイナー」と讃えています。そして「天才」「芸術家」「錬金術師(魔術師)」「マジシャン」という表現を使って辻氏のことを話しています。
 


映紹: 『LOOPER ルーパー』の仕事はどういう形で入ってきたのですか?

: この映画は、まずジョセフが先にキャスティングされて、ブルース・ウィルスが後で決まりました。それにはいろんな理由がありますが、予算とかをうまく集められるために、ある程度有名な役者さんを選ぶというのもあります。
ジョセフと『G.I. Joe』(原題: G.I. Joe: The Rise of Cobra)で数年前に一緒に仕事をして仲良くなって、ジョセフから(メイク)やってくれないかというハンティングが来ました。

映紹: ジョセフはメイクに対してどういう態度を取っていましたか?

: すごい協力的で、本当の意味でのいい役者さんなので自分の演技だけではなく見た目から変われるというのがうれしかったみたいで喜んでいました。

映紹: 今回の仕事でのやりがい、苦労等は何でしたか?

: ふたりがまったく似ていないので、メイクでは似させる事が不可能だったので、顔のちょっと似ている人だったら楽なんですけど、全く違うんで、盛りつけすぎずに必要最小限でどれだけ似せてストーリーにあったメイクができるかという事が難しかったです。

映紹: いつ頃からこの仕事をしたいと思われましたか? 何がきっかけだったのでしょうか?

: 高校の三年生の時にいろいろ将来的に何の仕事をしたいかを考えていて、自分でも中学の時から8mm映画を撮ったりしていました。
映画の特殊効果に興味がありましたが、それまで特殊メイクには興味がなかったんです。というのはホラー映画に興味がなかったからです。特殊メイクというとホラー映画というふうに思っていたんです。でも、その他にもいろいろあるとわかったんです。
特殊メイクというのはいろいろな要素が入っていて、たとえば写真撮影、彫刻、色塗り、絵画、化学、医薬品までのいろいろな知識が必要なんです。
僕自身がわりと飽きっぽくて欲張りだったので、この仕事だったらいろいろな事ができるということで選びました。

映紹: どうして特殊メイクがホラー映画のみのものではないとわかったのですか?

: 後にボクの師匠になるディック・スミスさんがやったメイクで役者さんをリンカーン大統領に似せるというメイクの雑誌記事ををみてこれしかないと思いました。

映紹: そのディック・スミス氏は、フォームラテックス製のマスクをパーツに分けた手法を映画界で初めて使用したと言われていますが、辻さんのやり方はどういうものなのでしょうか?

: 最近はシリコンのゴムが一般的です。90年代の頃実験をし始めて、『メン・イン・ブラック』の時に初めてしっかりしたアプライアンスを作れる方法を作り出して、材料が発展していきました。
シリコンが簡単に手に入れる事ができるようになったのが90年代初め頃なんです。シリコンのゴムはあったんですが、人工皮膚に使うようなシリコンが出始めたのがその頃。
スミス氏は、開発したのではなく、よりよく改良していったんです。やり方と作り方とアプライアンスに使う方法を作っていた人のひとりですね。

映紹: 技術を向上させるためなどにしている事は何ですか?

: こだわり続けること。
惰性でやっている人が多く何も深く考えずに、いいように変えていかない。一年前やっていた同じ方法で今でもやっている人がいっぱいいます。
どういうふうにして自分はこれをやっているという理由とか意味が作品に出てこないとダメだと思います。
作品をよくなっていくために変えていくいう姿勢を持って毎回毎回やっています。

映紹: 『もしも昨日が選べたら』 (原題: Click) と『マッド・ファット・ワイフ』(Norbit)でアカデミー賞にノミネートされた時はいかがでしたか?

: 栄誉な事ですね。映画自体がノミネートされるような映画ではなかったので、純粋にメイクが理由でノミネートされたので良かったと思います。

映紹: どの作品がご自分にとっての代表作と思われますか?

: 『LOOPER/ルーパー』です。
メイクだけではなく映画自体のでき上がり、内容、今まで自分が関わった映画の中で一番良かったです。

映紹: この仕事を目指す若者にアドバイスをお願いします。

: こだわって、自分しかできない仕事をやっていくべきでしょうね。
自分のやり方で。
 

今現在は、映画だけでなくファインアーツという形で創作されている辻氏。
特殊メイクを使って作るいい映画がほとんど少なくなっている中、出した結果が誇れるような、時間をかけてこだわって作って仕上げていく仕事をしたいそうです。
彼のファインアーツ作品がアメリカのみならず日本でも見られる日を待ちたくなるインタビューでした。

Kazuhiro Tsuji
辻一弘(つじかずひろ)
京都市生まれ。
ハリウッドで活動する京都府京都市出身の日本人特殊メイクアーティスト。
中学生の頃より映画の撮影をし始める。
日本の映画『スウィートホーム』『ミンボーの女』『八月の狂詩曲』などの作品に携わる一方、代々木アニメーション学院で主任講師として生徒の指導にあたる。
アメリカで『メン・イン・ブラック』の仕事を担当するため、1996年にアメリカに移住。
スポンサーとなったリック・ベーカー氏と共に『ナッティー・プロフェッサー』『グリンチ』『猿の惑星』『メン・イン・ブラック2』『もしも昨日が選べたら』『マッド ファット ワイフ』などの作品に携わった後、2007年から独立して『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『G.I.ジョー』『ソルト』などを担当。

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