ハリー・ポッターと死の秘宝(原題: Harry Potter and the Deathly Hallows)PART 2 のレビュー(評論、批評、見解、感想)

ハリー・ポッターと死の秘宝(原題: Harry Potter and the Deathly Hallows)PART 2

 
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「生き残った男の子(The Boy Who Lived)」と「名前を言ってはいけないあの人(He-Who-Must-Not-Be-Named)」の最後の闘いがついに始まった.
予告編のトレーラーを見ただけで涙してしまう、そんなハリー・ポッターファンはたくさんいるだろう.
十年という長い間、メインキャストが同じで、ファンをここまで魅了した映画シリーズはなかった(2011年までにおいて、興行収入最高の映画シリーズ).
この完結編に駆けつけるファン達は、ハリー、ロン、ハーマイオニーと共に成長してきた若者たちであり、その子供たちの成長を見守ってきた大人たちでもある.
劇場には、杖を持ち、暗記した呪文を唱え、ホグワーツの制服やクィディッチのユニフォームを着たファンもいて、ハリーのメガネを真似た3D用の眼鏡と共に観客を喜ばせた.

© 2011 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ヴォルデモート(レイフ・ファインズ)が、アルバス・ダンブルドア(マイケル・ガンボン)の墓からニワトコの杖を奪う『死の秘宝 PART1』が終わった所からPART2は始まる.
死喰い人たちに囲まれ、異様な雰囲気が漂うホグワーツ魔法魔術学校.
後ろ向きで立っているが、そのシルエットだけでわかる憂いのプリンス、セブルス・スネイプ(アラン・リックマン).
ダンブルドアが、築いた安全は世界は、すっかり変わってしまっていた.

その頃、ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)は、マルフォイ家の地下牢から助け出した、オリバンダー老人(ジョン・ハート)から死の秘宝の一つ、ニワトコの杖の話を聞く.
志も新たに、救助したもう一人、グリップフック(ワーウィック・デイヴィス)の協力を得、グリンゴッツ銀行のレストレンジ家金庫にある分霊箱(ホークラックス) を捜しに出かけるハリーたち.
シリアスな状況にいながら、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)が、べラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター)に変身して銀行の頭取たちとやり合うシーンは笑わせてくれる.演技派ボナム=カーターがワトソンの真似をうまくこなしているのが、可愛くて可笑しい.
金庫にたどり着くまでが、映画『キャスパー(原題:Casper)』を思い出させる、スリリングで楽しいものになっている.

そして、ダンブルドア校長の弟、アバーフォース・ダンブルドア(キーラン・ハインズ)の登場にはハッとさせられた.ハインズが初代ダンブルドアのリチャード・ハリス(We miss you, Richard! RIP) とガンボンをかけ合わせた若いヴァージョンなのだ.
この映画シリーズで感心する事は多くあるが、そのひとつが配役の良さ.メインの三人の子役から、イギリスを代表する俳優陣まで、最初から最後まで実にうまいキャスティングをし続けた.
アバーフォースの助けを借り、ついにハリー、ロン(ルパート・グリント)、ハーマイオニーは、ホグワーツに戻って来る.
ここでのシーンも素晴らしい.しばらく見なかったミネルバ・マクゴナガル(マギー・スミス)の大活躍.マクゴナガル教授の毅然とした態度に感動し、劇場に歓声が上がる.

© 2011 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

感動を越え、この映画の心震える場面はもちろん、スネイプの秘められた過去、閉ざされた想い、隠された目的が明かされるシーンである.
善と悪の闘いの中で、一番苦悩したであろう人物.涙なしに観られない切なく哀しい映像の数々.
シビル・トレローニー(エマ・トンプソン)の予言のシーンも含め、このモンタージュがもっと長かったらと残念でならない.この複雑なキャラクターを演ずる、もう一人の主役とも言える、名優リックマンの出番がもっと欲しかった.
出番と言えば、リックマンだけではなく、トンプソンはじめ、ハグリッド(ロビー・コルトレーン)、ホラス・スラグホーン(ジム・ブロードベント)、フィリウス・フリットウィック(ワーウィック・デイヴィス、二役)などのホグワーツ魔法魔術学校の面々をもっと観たかった.かろうじてアーガス・フィルチ(デイヴィッド・ブラッドリー)が要所に出てくれている.
もう一つ涙腺を試されるシーンは、ハリーが母(ジャラルディン・ソマーヴィル)やシリウス・ブラック(ゲイリー・オールドマン)と会話する場面である.
オールドマンをもっと観たかったが、既に亡くなっているキャラクター故、垣間見る事ができただけで良しとするか.

戦いのシーンの数々は、スタッフのヴィジョンと努力の賜物といえる壮大なスペクタル.そのスケールの偉大さ、セットの素晴らしさは言うまでもなく、撮影アングルを様々に変え、近距離から遠距離まで滑らかに動き観客を魅き入れる.
しかし、こどもに見せる為か、同志たちがどのように散っていったという描写はまるでというほどなく、ただ亡骸を後でみるという事態に留まっている.ウィーズリー家の悲しみも短くて、ここまで長く出演してきたキャラクターに申し訳ない気がした.
ハリーvsヴォルデモートの次に観たかったモリー・ウィーズリー(ジュリー・ウォルターズ)とレストレンジの闘い.モリーの台詞が若い観客に大受けだったが、これまた短か過ぎてがっかり.

時間制限の為か描き切れないシーンが多い中で、時間をとってもらっているのが、ネビル・ロングボトム(マシュー・ルイス)の活躍.
予言の中のもう一人の子供、ネビルが、ヒーローになった時、ヴォルデモートが彼を狙っていたらどういうストーリーになっていただろうと、想像してしまう.

© 2011 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

そしてクライマックスの闘い.
ヴォルデモート役のファインズが、彼だとわかる演技で、指の先から口より出す音まで悪役に徹している.
この悪に対抗するハリー役のラドクリフ.
ふたりの闘いを観ながら、ふとハリーの少年時代を思い出す.
ひとり、真夜中、自分で泥の上に描いたケーキのろうそくを消した淋しい男の子.いじめられても心の曲がらなかった芯の強い男の子.あの少年が、青年になって闇の帝王と闘っている.最初からわかっていた結末ながら、力が入ってしまう.

観ている者がここまで思い入れできる作品を創れるというのは稀にない事だ.
著者の J.K.ローリングの想像力の賜物は、映像のマジックですばらしいポッターの世界を繰り広げてきた.
ローリングを筆頭に、製作者のデヴィッド・ハイマン、プロダクション・デザイナーのスチュワート・クレッグが、全作全力投球してきたのがよくわかる.この核になるチームが、十年以上もファンのみならず多くの観客を魔法の世界に導き、そして何より、スペシャル・イフェクト、ヴィジュアル・イフェクトを担当する、数え切れないスタッフがイマジネーションを越える世界を堪能させてくれた.魔法の世界が現実にしてくれた彼らこそマジシャンだ.

しかし、この完結編は物足らない.ここで監督の決断に落ち度があった.のめり込める世界であるからこそ、編集の仕方に疑問が残る.最後だからこそ、多少時間が長くても、もっと、もっと観ていたかった.時間を気にせず、急かされたエディティングでなければ、より満足な気分になれたのかもしれない.前編にあれだけ時間を割いたのだから、よく考えてみたら、時間制限など理由にならない.どこの部分を長く観ていたかったかは個人差であろうが、多くの観客が反応していたシーンが短いのは計算間違いと言えよう.
最終章のDVDは長めに、もっとうなずけるヴァージョンになるのだろうか?
勿論、詳細にこだわらず、割り切って大きな気持ちで観ることができる方には、迫力満点な最終作.感涙の涙とともに、満足して劇場を出る事ができるだろう.

メインキャラクターの19年後を見せるエピローグは賛否両論あろうが(多くの笑いを呼んだメイク)、ハリーとハーマイオニーが結ばれなかった事に、 最後まで不自然さがある.
最後のハリーと彼の息子アルバス・セブルス・ポッター(アーサー・ボーウェン)の会話は、スネイプファンの涙を誘う.ハリーの言葉をしみじみ聞いてほしい.

マジカルな気分を充分味わいながら、どこかの劇場でまた全作観たいものだ.

【追記】
この映画は、観客がハリー・ポッターシリーズを周知している事を前提に創られているので、原作本全編を読んでいる人や、DVDなどでストーリーを把握している人はいいが、そうでないとついていけない部分が多数ある.劇場に足を運ぶ前に本を読んだり、前作をDVDで観ておいた方が話もフォローでき、登場人物の心情もわかり、映画を楽しむ上で必要かと思われる.
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈作品集〉
【DVD】 レイフ・ファインズ
【DVD】 アラン・リックマン
【DVD】 ヘレナ・ボナム=カーター
【DVD】 マイケル・ガンボン
【DVD】 マギー・スミス
【DVD】 ロビー・コルトレーン
【DVD】 ゲイリー・オールドマン
【DVD】 エマ・トンプソン
【DVD】 デヴィッド・シューリス
【DVD】 ジム・ブロードベント

 

 


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