推理作家ポー 最期の5日間(原題:The Raven) のレビュー(評論、批評、見解、感想)by Darcon を読む

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Review by Darcon

 
19世紀に名を馳せた作家・評論家 エドガー・アラン・ポー(1809-1849) の父母はボルティモアで出会った.そして、ボストンで生まれた幼いエドガー・ポーをボルティモアに住む祖父母の元に預ける.
後に孤児となった彼はヴァージニア州リッチモンドに住むアラン家に引き取られ、ロンドン、フィラデルフィア、ニューヨークで人生の大半を過ごした.
奇しくもボルティモアで不慮の死を遂げたポーは、ボルティモアのウェストミンスター教会に埋葬されている.

そういった経緯で、ボルティモアの住民たちはポーをネイティヴサンとして誇りに思っている.
自分たちの街がネイティヴサンの死を扱った映画の中でどう描かれているか興味津々だったのだが、残念な事にほとんどのシーンはセルビアとハンガリーで撮影されていて、その他のシーンはバレバレの安っぽいCGでがっかりしてしまった.

© 2011 Amontillado Productions, LLC. All rights reserved.

ゴシック時代の「フーダニット (英:Whodunit = Who’d done it) 」スリラーのオープニンングは、警察官が無理やりドアを開けると、被害者のひとりが暖炉の煙突に詰め込まれていたという無惨な場面で始まる.
不可解な事に、この殺人現場はポーの短編『モルグ街の殺人』(原題:The Murders in the Rue Morgue)の場面によく似ていたため、フィールズ警部(『タイタンの戦い』(原題: Clash of the Titans)でアポロを演じたルーク・エヴァンズ)も最初はポーを疑うのだった.
その後パスティーシュを散りばめたシーンと無惨な殺人シーンが合い混ざって、映画の方向性を疑わせてしまう.

この映画の血肉が散乱するスプラッターシーンはショッキングなほどグロい.
テレビ番組『CSI:科学捜査班』のまねかと思わせるようなシーンもいくつもあり、監督のジェームズ・マクティーグがそういう事もできると証明しようとしているように思えてしまう.

もちろん、使い古されたクリシェの上を行く本来のテラーはいくつかある.
ぞっとするような大鎌が次第に近づいてくる落とし穴と振り子のシーンは、度を超える切開が実際に行われる前から身震いさせられる.
明らかに閉所恐怖症のポーの恋人エミリー・ハミルトン(アリス・イブが好演)が生き埋めにさせられてしまう迫真の場面、棺桶の中を開けた時に死体と大鴉が一緒になっていたシーン、霧の森の中犯人を追う情景等も見応えがあった.

しかし、本当の恐ろしさ・ホラーというものは、次に何が起こるかわからないから恐ろしさが増すものだ.
アンノウンがイマジネーションを産みぞっとする恐怖感を呼び起こす.
映画のインパクトがB級映画に見られる首切りなどの猟奇的なシーンで品質を落としてしまっている.

© 2011 Amontillado Productions, LLC. All rights reserved.

ポーが殺人鬼に向かって愛するエミリーの居場所を尋ねるシーンは、静かな緊張感があったのだが、ポーの弾丸が犯人の耳をかすめた時彼が返す言葉によってすべて無駄になってしまった.
多くの観客はここで笑ってしまったくらいだ.
このシーンの他にも笑うべきシーンでない所で劇場から笑いがこぼれてしまうとは情けない.
せっかくのムードも台無しだ.
弾丸のスローモーションに至ってはカットした方がよかった.
殆どのダイアローグはくだらないしこの時代にマッチしていると思えない.

そうは言っても、すべてがひどいわけじゃない.
ルーカス・ヴィダルによるスコアはエネルギッシュで素晴らしい.
ポーが自身の作品を再検討するプロット、シネマフォトグラフィー、照明、衣装も、監督の使いすぎるクローズアップに耐えうる性格俳優もいける.
キューザックも、フィールズ警部を相手にしたワンシーンのみだが、ポーになりきったいい演技をしている.

キューザックと監督は、二次元的なポーを演出したくなかったから「やぎひげ」をつけたと言っていた.
キューザックがポーの役作りの努力をしたのは理解できるが、やぎひげがあろうがなかろうが、彼のさっぱり感はフィットネス・クラブで二時間ワークアウトした後の演技としか思えない.
エンドクレジットでキューザックお抱えのシェフの名まで出てきたのには笑ってしまった.
演技を向上させるためにはひげを付け足すよりもっと大事なものが必要だ.
監督に文句を言っても、キューザックを責めても仕方がないのかもしれない.
誰がこのエドガー・アラン・ポーを彼よりうまく演じる事ができたであろうか.

『CSI:科学捜査班』、犯罪・クライム番組をこよなく愛する観客は、現在の推理物語、探偵物語にポーが及ぼした影響力に想いをはせるしかないだろう.
もっと違った感覚でこの映画を創っていたらもっといい映画になっていただろうにと悔やまれて仕方ない.
ボルティモア市でロケする事も必須だ.

最初と最後のシーンがベンチにすわったポーという一巡性は、まとまりのないこの映画を締めている.

最後に一言、エンドクレジットが始まる前に劇場を去る事を勧める.
映画を観る礼儀も知らないユーロトラッシュの映画科学生が作ったに違いないようなエンドロールで、映画を観終えた観客に失礼だ.
犯人を探し当てる最初の手がかりを示唆しているつもりだったのなら全く話にならない.
 

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