RED/レッド (原題: RED) のレビュー(評論、批評、見解、感想)

RED/レッド (原題: RED)

ブルース・ウィリスという名前だけで映画館に観客を動員できるのに、演技派モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、そしてヘレン・ミレンまでキャストされているとなると見に行かざるを得ない気になってしまう.

© 2010 Summit Entertainment, LLC. All rights reserved.

『ダイ・ハード』で有名なブルース・ウィリスは、他のアクションスターと違い年を取ってきている事を隠さず、むしろそれだから、それでも、それなりに頑張るという姿勢をとって来た.
今回もタイトル『RED/レッド』- Retired (引退した) Extremely (超) Dangerous (危険人物)でもわかるように、年を取った役回りを自然にこなしている.

家具はあるが人が住んでいるという感じのしない家でブルース扮するフランクが独り過ごしているシーンから始まる.とりあえず物を揃えて、とりあえず飾り付けをして、それでもぎこちなさが隠せない.
年金係の女性セーラ(いくつになっても可愛らしいメアリー=ルイーズ・パーカー)と電話で話をするだけが楽しみという寂しい毎日.
やっとセーラ本人に会おうとする矢先にフランクを暗殺しに覆面尽くめのプロフェッショナルのチームが彼を襲ってくる.

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鍛えられた故のフランクの落ち着きがカッコいいのだが、この襲撃があまりに大げさ過ぎたことでこの映画の原作はグラフィッックノベルだった、と気づく.
本当にCIAだったらこんな目立ちすぎて後から言い訳と始末が大変なやり方はしないだろう.
クリーブランドからカンサス・シティへ.
ニューオリンズからニューヨークへ.
ペンシコーラからモービルへ.
ワシントンDCからラングレイへ.
チェサピークからシカゴへ.
いったい誰が何故自分を殺そうとしているのか、という真相探しで舞台が次々変わるのをセーラのオフィスに飾ってあったポストカードを思わせる編集で話を進める.

老人ホームでくすぶるジョー役のモーガン・フリーマンと、どこまでもメンタルなマーヴィン役のジョン・マルコヴィッチは出番が少なくて残念至極.
「自分が年を取るなんて思ってもみなかった」と言うジョーに現役時代の激しさをかいま見る.
何をやっても何を言っても面白いマーヴィンだが、所々でアメリカ政府に実験台とされた悲しさを感じられる.
映画の内容が薄くても、彼らのように底の深い役者が登場する度に場面が濃くなる.
そんな彼らのシーンは限られ過ぎだ.

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特にフリーマンの退場の仕方はあまりにも早過ぎる上に納得できない.
あまりに顕著すぎるハリウッド映画界の黒人俳優に対する安易な引かせ方にまたも疑問を感じる.
続編があってフリーマンが意外なカムバックをしない限りこれがこの映画の汚点と言えよう.

一方、この映画の一番良い所は、ヴィクトリア役のヘレン・ミレンとアイヴァン役のブライアン・コックスである.
英国特有のティーセットとフラワーアレンジメントでいっぱいの大きな家に住む元イギリスMI6のヴィクトリア.そのエレガントな立ち振る舞いと射撃の激しさを難なくこなす力強さをミレンがうまくバランスさせている.
ひと昔、そんな彼女が愛したスパイがいた.愛をとるか仕事をとるか、選択を迫られたヴィクトリアが選んだ道は、自分の想いを殺すこと.
そんな彼女が、自分の頭をぶち抜くのではなく、代わりに胸を三発撃った事で真の愛情を確信していたロシアKGBのアイヴァン.
ヴォッカ飲みのどこか紳士的でロマンチィックな彼もまた、仕事に捕われた人物.
この二人のやりとり、物腰、深く複雑であっただろう過去が熟年の素晴らしい俳優によっておいしく表現されていた.
ヴィクトリアとアイヴァンの物語の方がかえって面白かったかもしれない.

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全体的には脚本の未熟さが登場人物の心理の深さに追いついて行けない.
彼らのキャリアが彼ら自身にどのような影響をもたらしたか、という複雑な思いを表現しきれていない.
これだけのキャストを揃えておいて、至極面白い作品になりうるバックグラウンドがありながら、普通のレベルで終わってしまうのは物足らない.
斬新なアイディアを使っている訳ではないし、コメディというにはバイオレントすぎるし、アクション映画としては、傑作とは言えない.
しかし、いい役者を観る事に喜びを感じ、シリアスに考えず軽く楽しめる娯楽作品ではある.
久しぶりに観る往年の俳優アーネスト・ボーグナインが元気で頑張っているのも嬉しい限りである.
最近若い俳優ばかりが主役なのに疲れた方にちょうどいいかもしれない.

<追記>
興行成績が予想を上回った為、続編を制作する事に決まったと報じられた.

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