トータル・リコール(原題:Total Recall) のレビュー(評論、批評、見解、感想)

Review by Darcon

 

この映画を観る前にコーヒーでも一杯、なんて考えないように。
常時感覚に猛攻撃をしかけてくるこのワイルドなアクションスリラー映画は、今の若者好みの作品と言えるだろう。
ヴァイオレンスが絶え間なく続くから,小さい子は連れて行かない方がいい。

© 2012 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

カナダのトロントで撮影された今回の『トータル・リコール』は、1990年に公開されたアーノルド・シュワルツネーガー主演映画のリメイクでタイトル名こそ同じだが、多くの点で違う映画になっている。

フィリップ・K・ディックのSF短編『追憶売ります』(原題: We Can Remember It For You Wholesale )を基に創られたと言っても、何人もの脚本家の手によって更に脚色され、ストーリーは第三次世界大戦後の未来設定、火星が舞台のオリジナル版『トータル・リコール』と違い、今回は地球が舞台だ。

化学兵器戦争後、人々は地球上ほとんどの土地で住む事ができなくなり、ブリテン連邦とオーストラリアコロニー(植民地)の二つの地域でのみで暮らせる事態になっていた。
労働者達はこの二つの地域を「ザ・フォール」という乗り物で行き来するという設定。

コリン・ファレル演ずるダグラス・クエイドという男は、昼は工場の仕事に退屈し、夜はどこかから脱出しようとする悪夢に悩まされていた。
彼は、ローリー(実生活では今作品の監督レン・ワイズマンの夫人であるケイト・ベッキンセイル。目の保養になる)と七年間結婚生活を送っていると信じていたが、この記憶は植え付けられたもので、実は彼はハウザーという名のシークレット・エージェントなのだ。

クエイドが悪夢について話をすると、妻のローリーも友人のハリー(ボキーム・ウッドバイン)もそんな夢は忘れてしまった方がいいと言う。
しかし、いたたまれない彼は結局リコール社という所に赴くのだった。

オリジナル版とリメイク版で似たシーンもいくつかある。
オリジナルに対する敬愛とでも言おうか、そのひとつが乳房が三つあるミュータント、メアリー(ケイトリン・リーブ)の登場シーン。
彼女以外にミュータントの出現はなく、コーヘイゲン(ブライアン・クランストン)に言わせれば反抗者であるレベルばかり登場する。

映画はクエイドがリコール社を訪れる所からやっとエンジンがかかる。
スペシャルエフェクトは素晴らしい。
都市景観をバックドロップに空中に浮かぶ車のはらはらするカーチェイスシーンや絶え間ないエレベーターのシーンは目が眩むくらいだ。
だが、スターウォーズからのパクリのようなロボット軍団は少し安っぽい感があった。

© 2012 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

クエイドの妻ローリーが彼を抹殺しようとしている危機一発の所を謎の女性メリーナが助けに駆けつける。
このメリーナを演ずるジェシカ・ビールが美しく、強く、そしてセクシー。
オリジナル版のシャロン・ストーンに比べてケイト・ベッキンセイルはいまひとつだったが、ケイトは勿論シャロンでさえもこのジェシカの魅力にはかなわない。

プロット(筋書き)は大したものではなく肉付けもよくない。
ダイアローグ(会話)も平凡で単調。
オリジナル版『トータル・リコール』を観ているせいか、火星が舞台となっていないのもがっかりだった。
そして、リメイク版はコーヘイゲンが自分がテロに立ち向かうプロテクターとして愚かなマスコミを丸め込み、コロニーの支配を目論んでいる。

この新作のどこが気に入らないか考えてみた。

アクション映画でシェークスピアのような言葉遣いのうまさを期待するのは間違いだとわかっている。
ミドル級のコリン・ファレルがミスキャストだという事もライト級より(大した差はないのだが)はマシだと思える。

しかし、映画全体に軽快さや快活さもまったくない所はどうもいただけない。
ことわざや格言にもあるように、痛みを知ってこそ喜びがわかるというものだ。
終末ものの映画としての都市風景としては,『ブレイド・ランナー』のような悪夢的なものであるし、クエイドが妻と一緒に住んでいたアパートは薄汚れて気持ちのいいものがまるでない。
スラム街ではいつも雨が降っている。

記憶が定かではないが、シュワルツネガーの時の家はもっとマシだった。
映画全般にわたって、この荒れ果てた世界に対位するものも緩和される安堵感もない。
繰り広げられるヴァイオレンスや追跡シーンが次第にうんざりするほどくどく思えてしまう。

一方、オリジナル版は最後にはそれまでの暗さと対峙して火星で青い空も見られる。
正義の味方が勝つ。

リメイク版にどんな政治や環境か影響したか知らないが、青空もなく鳥の声も聞こえない雨の降る暗い所で、愛する者と救急車で運ばれる事が成功とは、やるせない感がある。
気落ちするエンディングはシネマヴェリテという人もいるかも知れない。

ハッピーエンドが欲しい訳じゃないが、ポップコーンに8ドル50セントも払った後には少し希望が欲しいものだ。
乳房が三つあるミュータント女性の登場はありがたかった。

最初のオリジナル版『トータル・リコール』の方が良いが、二作とも自分で観て判断する事をおすすめする。
 

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